毎年1月は「償却資産税」の申告準備が始まるため、多忙を極める時期ではないでしょうか。
「償却資産税と言っても、固定資産税と何が違うのかよく分からない」「PCやサーバー、社内の備品まで対象になるのか?」「計算方法や申告の流れが複雑で、毎年不安を感じている」
このようなお悩みや疑問を抱えている方も少なくないかと存じます。償却資産は、土地や建物と違って種類が多く、日々の管理も煩雑になりがちです。その結果、申告漏れや計算ミスといったリスクも潜んでいます。
この記事では、償却資産税の基本的な知識から、混同しやすい固定資産税との違い、具体的な計算方法、申告の流れまでを網羅的に解説します。この記事が、皆様の適正な申告業務と、業務効率化の一助となれば幸いです。
償却資産税と固定資産税の違いは?

償却資産税の理解を深める第一歩は、多くの方がご存知の「固定資産税」との違いを明確にすることです。どちらも「固定資産」に対して課税されますが、その対象や納税先が異なります。
そもそも固定資産税とは
固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日=税金を課す基準となる日)時点で所有している「土地」「家屋(建物)」、そして「償却資産」に対して課税される地方税(市町村税)です。
多くの場合、「固定資産税」と言うと、会社が所有する土地やオフィスビル、工場といった不動産にかかる税金というイメージが強いかと思います。
償却資産税は「事業用資産」への課税
固定資産税が課税される3つの区分のうち、「償却資産」の部分だけを指して、実務上「償却資産税」と呼んでいます。
償却資産税の最大の特徴は、法人税や所得税の計算上、減価償却の対象となる「事業のために用いることができる資産」(土地・家屋・自動車税対象などを除く)が対象である点です。
対象資産と納税先の違い一覧
両者の最も大きな違いは「申告の要否」です。
土地や家屋は、登記情報などに基づき市町村(東京23区の場合は東京都)が評価額を算定し、納税通知書を送付してくれます。納税者側が自ら「いくらです」と申告する必要は原則ありません。
一方で、償却資産は、市町村がそのすべてを把握することが困難です。そのため、所有者である企業(納税者)が自ら「当社はこれだけの償却資産を持っています」と、資産の状況を毎年申告する必要があります。この「申告義務」が、経理ご担当者様の業務負担となっている大きな要因と考えられます。
償却資産税の対象となる資産とは?

では、具体的にどのようなものが「償却資産」として申告対象になるのでしょうか。ここで対象資産の範囲を誤ると、申告漏れに直結するため注意が必要です。
対象となる主な資産(6分類)
地方税法では、償却資産を以下の6種類に分類しています。
- 構築物:舗装路面、門、塀、看板(広告塔など)、受変電設備、緑化設備など
- 機械及び装置:各種製造設備、クレーン、ブルドーザー、NC工作機械など
- 船舶:ボート、漁船、客船など
- 航空機:飛行機、ヘリコプターなど
- 車両及び運搬具:鉄道車両、フォークリフトなど(※自動車税などの対象を除く)
- 工具、器具及び備品:PC、サーバー、コピー機、応接セット、事務机、椅子、エアコン、陳列棚など
企業規模が大きくなるほど、これらの資産は多岐にわたり、そのすべてを正確に把握・管理することが求められます。
PCやソフトウェアは対象になる?
多くの企業で保有しているPC(パソコン)やサーバー、コピー機、複合機などは「器具及び備品」に該当し、償却資産税の対象となります。
一方、ソフトウェア(会計ソフト、OS、アプリケーションなど)は、税務会計上は「無形固定資産」として扱われます。償却資産税の対象となる資産は「有形」のものに限られているため、ソフトウェア単体は原則として対象外です。
対象外となる資産(自動車税など)
以下の資産は、償却資産税の対象から除外されます。
- 自動車税・軽自動車税の対象となるもの:事業用であっても、通常の乗用車やトラックなどは、別途、自動車税などが課税されるため、償却資産税の対象にはなりません。(※ただしフォークリフトなど大型特殊自動車は対象です)
- 無形固定資産:前述のソフトウェアのほか、特許権、営業権なども対象外です。
- 使用可能期間が1年未満の資産
- 取得価額が10万円未満の資産(税務会計上、一時損金として処理したもの)
- 取得価額が20万円未満の資産(税務会計上、3年間で一括償却を選択したもの)
【ここに注意!】「30万円未満の特例」は申告対象
特に注意が必要なのが、「中小企業者等の少額減価償却資産の特例(取得価額30万円未満)」を適用した場合です。
この特例を利用すると、法人税の計算上は全額を即時に経費(損金)にできます。そのため、「経費にしたから(一括償却と同様に)償却資産税も対象外だろう」と誤認してしまうケースが非常に多く見られます。しかし、この30万円未満の特例資産は、償却資産税においては「申告の対象」となります。
「20万円未満の一括償却」ではなく、あえて「30万円未満の特例」を選択するケースも多いかと思いますが、会計上の処理(即時償却)と償却資産税の扱いは必ずしも一致しません。「経費処理=申告不要」と思い込まず、適用した税制措置を確認し、正確に切り分ける必要があります。
償却資産税の計算方法と税率

償却資産税は、「課税標準額」に「税率」を乗じて算出されます。ここでは計算の基本的な流れを確認します。
課税標準額の計算ステップ
課税標準額は、個々の資産の「評価額」を、申告先の市町村ごとにすべて合算したものです。
個々の資産の評価額を算出する資産の評価額は、取得時期によって計算方法が異なります。
前年中に取得した資産:評価額=取得価額×(1-減価率÷2)
前年より前に取得した資産:評価額=前年度の評価額×(1-減価率)
※「減価率」は、資産の価値が時間とともにどれだけ減少するかを示す割合で、資産の耐用年数に応じて(法律で)定められています。(例:新品のPC(法定耐用年数4年)の場合、減価率は0.500です)
※計算した評価額が、取得価額の5%を下回る場合は、その5%の額が最低限の評価額(最低限度額)となります。
全資産の評価額を合算する市町村内にある全対象資産の評価額を合計し、1,000円未満を切り捨てた額が「課税標準額」となります。
税率(標準税率1.4%)
償却資産税の税率は、原則として1.4%です。これは標準税率であり、多くの市町村でこの税率が適用されています。
税額=課税標準額×税率(1.4%)(※算出された税額は100円未満切り捨て)
計算シミュレーション例
(例)A市内に以下の資産を所有している場合(減価率は仮定)
- 資産①(前年中に取得):取得価額300万円、減価率0.2評価額=300万円×(1-0.2÷2)=270万円
- 資産②(前年より前に取得):前年度評価額100万円、減価率0.1評価額=100万円×(1-0.1)=90万円
課税標準額:270万円+90万円=360万円年税額:360万円×1.4%=50,400円
償却資産税の免税点とは?

償却資産税には、一定額以下の場合に課税が免除される「免税点」が設けられています。
課税標準額150万円未満は非課税
同一市町村内に所有する償却資産の課税標準額の合計が150万円未満の場合、その市町村からは償却資産税は課税されません。
これは、少額の資産にまで課税・徴収を行う事務コストを考慮した制度です。ただし、ここで注意が必要です。課税標準額が150万円未満で「課税されない」場合でも、償却資産を所有している限り、原則として申告書の提出は必要です。「税金が発生しないから申告しなくて良い」わけではない点に、十分留意が必要です。
免税点と「少額資産」の違い
免税点の「150万円未満」は、あくまで「課税標準額(評価額の合計)」で判断します。「取得価額の合計」ではない点にご注意ください。
また、「取得価額10万円未満」などの少額資産は、そもそも申告対象から除外されます。免税点は、申告対象となる資産(10万円以上の資産など)をすべて積み上げた結果の「評価額」が基準となる点を混同しないようにしましょう。
申告から納税までの流れ

償却資産税の業務は、毎年決まったスケジュールで進みます。経理部門の年間スケジュールの中でも、特に重要な業務の一つです。
1月1日時点の資産を申告
賦課期日である1月1日時点で所有している償却資産の状況(資産の種類、取得価額、取得時期など)を申告書に記載します。
そのため、経理部門では12月末までに、その年1年間の資産の増減(新規取得、除却、売却)を固定資産台帳に正確に反映させ、1月1日時点の資産状況を確定させる作業が必要となります。
申告期限(1月31日)
申告書の提出期限は、原則として毎年1月31日です。申告先は、資産が所在する各市町村(東京23区の場合は都税事務所)です。
複数の市町村に事業所や工場がある場合は、それぞれの市町村ごとに申告書を作成し、提出する必要があります。中〜大企業の場合、申告先が数十、数百に及ぶケースも珍しくありません。
申告書の提出は、各市町村の窓口や郵送のほか、地方税ポータルシステム「eLTAX(エルタックス)」を利用した電子申告も可能です。
納税の時期(年4回など)
1月31日までに提出された申告内容に基づき、市町村が税額を決定し、通常6月頃に納税通知書が送付されます。
納税は、年4回(例:6月、9月、12月、翌年2月)に分けて納付するのが一般的ですが、市町村の条例によって異なる場合があります。
申告漏れや間違いのリスク

もし申告内容に漏れや誤りがあった場合、どうなるのでしょうか。市町村は、国税(法人税など)の申告情報と照合したり、税務調査(実地調査)を行ったりすることがあります。
その結果、申告漏れが発覚すると、本来納めるべきであった税額(過去数年分に遡ることもあります)に加え、過少申告加算税や延滞金が課されるリスクがあります。意図的な隠蔽と判断されれば、さらに重い重加算税が課される可能性も否定できません。こうした予期せぬコスト発生は、企業のキャッシュフローにも影響を与えかねません。
煩雑な償却資産管理はBPOの利用もひとつの選択肢

ここまで見てきたように、償却資産税の申告業務は、非常に煩雑で専門知識を要する業務です。
- 全社に散らばる対象資産の正確な把握
- 会計処理と連動した、少額資産などの切り分け
- 複数拠点にまたがる申告書の作成・提出
特に中〜大企業においては、資産の数が膨大になり、経理部門の限られたリソースを圧迫しているケースも多いのではないでしょうか。
「コア業務に集中したいのに、毎年1月の申告作業に追われてしまう…」「資産管理台帳の整備が追いつかず、申告漏れがないか常に不安だ…」
こうしたお悩みをお持ちの場合、償却資産税の申告業務を含めた経理業務を、専門のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスに委託するのも有効な解決策の一つです。
BPIOでは、手間のかかる「固定資産台帳の整備」や「資産情報の更新・管理」といった実務作業を代行します。日々の台帳管理をBPIOが正確に行うことで、最終的な申告業務を依頼する税理士法人や会計事務所へ、スムーズにデータを連携することが可能になります。
「データ整理はBPIO、申告業務は会計事務所や税理士法人」という役割分担を行うことで、経理部門の皆様を煩雑な入力・管理業務から解放します。創出された時間を、より付加価値の高い分析業務や経営サポート業務に活用しませんか。
償却資産税に関するQ&A

Q.中古資産の評価額はどうなりますか?
A.中古資産を取得した場合でも、評価額の計算方法は新品の資産と同様です。ただし、計算の基礎となる「取得価額」は、その中古資産の購入金額(付随費用を含む)となります。「耐用年数」については、新品の法定耐用年数ではなく、その資産の使用可能な残存年数を見積もって適用します(簡便法などもあります)。
Q.リース資産は対象になりますか?
A.リース資産が償却資産税の対象になるか、また誰が申告・納税義務者になるかは、リース契約の種類によって異なります。
原則として、ファイナンス・リース(所有権移転)の場合は、借主(資産を使用している企業)が申告義務者となります。それ以外(所有権移転外ファイナンス・リースやオペレーティング・リース)の場合は、貸主(リース会社)が申告義務者となるのが一般的です。自社のリース契約がどれに該当するかを確認し、適切に処理する必要があります。
Q.申告先はどこですか?
A.申告先は、その償却資産が「所在する」市町村です。例えば、本社がA市にあっても、工場がB市、支店がC市にあれば、それぞれの資産が所在するA市、B市、C市の各自治体に対して申告を行う必要があります。東京23区内に資産が所在する場合は、資産が所在する区にかかわらず、東京都(都税事務所)が申告先となります。
まとめ:償却資産税の正しい理解で適正な申告を

償却資産税は、土地や家屋の固定資産税と異なり、納税者自らが資産を把握し、計算・申告する必要がある複雑な税金です。対象資産の判定、評価額の計算、申告期限の管理など、経理担当者の皆様には多くの負担がかかっていることと存じます。
しかし、記事本編でも触れた通り、申告漏れや誤りは、追徴課税や延滞金といった予期せぬコストを発生させるリスクにもつながります。まずはこの記事で解説した基本をしっかりと押さえ、自社の資産管理体制を見直し、適正な申告を行うことが重要です。
もし、自社での資産管理や申告業務に限界を感じている、あるいはコア業務によりリソースを集中させたいとお考えでしたら、ぜひ一度BPIOのアウトソーシングサービスをご検討ください。貴社の経理業務の効率化とリスク軽減を、専門的な知見でサポートします。ご相談や資料請求は、お気軽にお問い合わせください。
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