「減価償却費は、会計ソフトが自動で計算してくれるもの」と思い込んでいませんか?
確かに計算処理そのものは自動ですが、その前提となる「償却方法(定額法か定率法か)」の選択は、企業の財務戦略に直結する重要な経営判断です。
この選択を誤ると、無駄な税金を払いすぎてキャッシュフローを悪化させたり、逆に融資審査などで財務の安定性を示すべき局面で、不要な赤字を計上してしまうリスクがあります。
本記事では、自動計算任せにせず、自社のフェーズに合わせて減価償却をコントロールするための戦略と、3月決算企業が知っておくべき「変更期限」について解説します。
1.減価償却は「費用のタイミング」をズラせる有効な手段

多くの経費は支払った時点で費用となりますが、減価償却費は特殊です。総額(取得価額)は決まっていますが、それを「いつ、どれくらい費用にするか」はある程度の自由度が認められています。
この性質を理解し、事業計画に合わせて適切に管理ことで、手元の資金繰りや決算書の見た目を大きく変えることが可能です。まずは、そのメカニズムを整理しましょう。
「お金が出ていかない経費」の重要性
経理実務において、減価償却費の最大の特徴は「キャッシュアウト(現金の支出)を伴わない費用」であることです。
通常の経費は、支払ったタイミングで会社からお金が出ていきます。しかし減価償却資産の場合、購入時にお金が出ていきますが、費用としては「数年にわたって」計上されます。つまり、2年目以降は「お金を払っていないのに、会計上は費用として計上され、その分だけ法人税等の支払いを減らせる」という現象が起きます。
これを専門的には「自己金融効果」と呼びます。この「お金が出ていかない経費」をどのタイミングで大きく計上するかによって、手元に残るキャッシュの量は大きく変わります。
「定率法」と「定額法」の利益インパクトの違い
償却方法の代表格である「定率法」と「定額法」は、最終的な償却総額は同じですが、「いつ経費になるか」というスピード感が全く異なります。
- 定率法(スタートダッシュ型):初年度の減価償却費が最も大きく、年々減少していきます。「早期に経費化できる」のが最大の特徴です。
- 定額法(フラット型):耐用年数にわたり、毎年同額を計上します。「利益の変動が少なく、計画が立てやすい」のが特徴です。
多くの会計ソフトでは、建物以外は初期設定で「定率法」になっています。
これは、税法上で定められた原則的な償却方法(法定償却方法)が定率法であるためです。しかし、必ずしもその原則通りの処理が、自社の現状にとってベストとは限りません。
2.ケーススタディ:戦略的な「使い分け」の判断基準

では、経営視点では「定率法」と「定額法」のどちらを選ぶべきでしょうか?
これに絶対的な正解はありません。企業の成長フェーズや、直近の財務課題(税金を減らしたいのか、黒字に見せたいのか)によって、選ぶべき戦術は180度変わります。代表的な2つのケースを見てみましょう。
ケースA:スタートアップ・成長企業・黒字企業
推奨:原則「定率法」
利益が出ている企業にとって、最大の敵は「法人税によるキャッシュ流出」です。定率法を採用して導入初年度に多額の償却費を計上すれば、その分だけ利益が圧縮され、納税額を抑えることができます。
これを「課税の繰り延べ」と言います。あくまで税金の支払いを先送りにしているだけですが、今のキャッシュを手元に残し、次の投資や運転資金に回せるため、資金効率(キャッシュフロー)は劇的に改善します。
ケースB:上場準備中(IPO)・融資検討中・赤字企業
推奨:あえて「定額法」
逆に、目先の利益を確保したい場合は「定額法」が有利です。
IPO・融資対策:銀行や投資家は「営業利益」や「経常利益」の推移を重視する傾向があります。定額法で費用を平準化し、安定した黒字決算を見せる戦略が有効です。
赤字企業:既に赤字の場合、定率法でさらに赤字幅を広げても、繰越欠損金の控除期限(10年)内に使いきれないリスクがあります。定額法を選び、少しでも損失を将来に分散させるのが守りの定石です。
3.実務の落とし穴:償却方法は「届出」で変更できる(期限厳守)

「ウチの会社はずっと定率法だから、今さら変えられない」と思い込んでいませんか?
実は、建物・建物附属設備・構築物以外の資産(機械装置、車両、工具器具備品など)については、税務署への手続きを踏めば償却方法を変更可能です。しかし、そこには厳格な「期限」の壁が存在します。
意外と知られていない「変更」のルール
償却方法の変更には「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」の提出が必要です。
ただし、頻繁な変更(例えば3年以内の再変更など)は、単なる利益操作とみなされ税務署に承認されない場合があります。「事業規模の拡大」「生産体制の変更」「海外展開の開始」など、変更を必要とする経営環境の変化に基づいた必然性のある変更であることが必要です。
最大の壁は「提出期限」
最も注意すべきはスケジュールです。償却方法の変更は、思い立ったその日から適用できるわけではありません。
ルール上、「新たな償却方法を採用しようとする事業年度の開始の日の前日」までに税務署へ届け出る必要があります。つまり、3月決算の企業が、来期(4月1日~)から償却方法を変更したい場合、今期の3月31日までに申請書を提出しなければなりません。
決算作業が始まってから(4月以降に)「やっぱり変更したい」と言っても手遅れです。今の時期(1月~2月)に来期の投資計画と利益予測を照らし合わせ、変更すべきかシミュレーションを行う必要があります。
4.決算直前でも間に合う!「特例」活用による微調整

「償却方法の変更期限には間に合わないが、今期の利益をなんとか圧縮したい」「来期のことより、目前の決算対策が最優先だ」
そのような場合に検討すべきなのが、制度上の「特例」や「資産の買い方」を工夫するテクニックです。ここでは決算直前でも実行可能な2つの手法を紹介します。
30万円未満の資産(少額減価償却資産)の即時償却
中小企業者等(青色申告法人で資本金1億円以下など要件あり)であれば、取得価額が30万円未満の資産について、年間合計300万円まで即時に全額経費計上(即時償却)できます。PCの買い替えやオフィス家具の購入など、決算月の駆け込み対策として有効です。
- プロの視点:この特例を使うと「償却資産税(地方税)」の課税対象になります。一方で、20万円未満の「一括償却資産」として処理すれば、3年均等償却にはなりますが償却資産税は非課税です。「法人税の節税メリット」と「償却資産税の負担増」を天秤にかけるのが、一歩進んだ判断です。
中古資産の活用(耐用年数の短縮)
中古資産は、新品よりも短い法定耐用年数(簡便法)を適用できます。例えば、4年落ちの中古社用車(普通車)であれば、耐用年数はわずか「2年」。定率法なら初年度にほぼ全額を償却できるケースもあります。
まとめ|減価償却を正しく把握して自社にあった活用をしよう

減価償却は、単なる事務手続きではありません。経理担当者が経営に対して提案できる、数少ない「利益とキャッシュのコントロールレバー」です。
- キャッシュを優先して「定率法」で攻めるか。
- 決算書の対外的な評価を優先して「定額法」で守るか。
「会計ソフトの初期設定だから」と思考停止せず、来期の事業計画に合わせて最適な償却方法を選び直してみてはいかがでしょうか。変更の期限は3月31日。今ならまだ間に合います。
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